K-FOODコラム

19. 韓国人が高級なワカメを買う理由




先日、韓国の漁港取材に出かけた際、

わざわざ漁港で刺身を買うかとの話になりました。

漁港の刺身店で食べるのではなく、自宅用。



最近はスーパーでも新鮮なものを買えますし、

近隣の市場や、飲食店に注文する手もあります。

漁港で買ってこれば美味しいのは当たり前ですが、

よほど近所でなければなかなかそこまでは。



同行の韓国人からそんな声があがる中、



「先日、特別なお客様があって買いに来ました!」



とひとりのガイドさん。

しかもけっこうな大枚をはたいたようで、

いったいどんなお客様かと尋ねると……。



「息子の彼女です」



一同、なるほどと納得しました。






このとき足を運んでいたのが韓国の東南部に位置する、

蔚山(ウルサン)の亭子港(チョンジャハン)。



蔚山といえば韓国有数の工業地域として栄える一方、

古くからの捕鯨文化を守る町としても有名。

刺身や鍋など、クジラ料理がよく知られていますが、

この亭子港に限ればいちばんの名産品は、



ワカメ!



激しい流れの中で岩に貼り付いて育つ、

天然の岩ワカメは韓国でも最高級品として扱われます。



かつてソウルの高級スーパーで見かけたときは、

1袋(220g)で5万4500ウォンという値段でした。

日本円にして、現在のレートで5500円ぐらい。



けっこうな値段ですよね。



亭子港のワカメ=亭子藿(チョンジャカク)といえば、

韓国人の誰もが最高級と認めるブランドです。






でも、そこまで高級になると、



「誰が買うの?」



という疑問が生じるかもしれません。

お金持ちが買うのか、熱心なワカメマニアか。

いえいえ、どちらも違います。



答えは……。



「出産を控えた娘のいるお母さん」



あるいはお姑さんであることもありますが、

韓国では出産後の体調回復と栄養摂取のために、

ミヨックッ(ワカメスープ)を食べる習慣があります。



それも毎食。ずいぶんな量を。



ワカメにはカルシウムやヨードなど、

良質のミネラルがたくさん含まれているため、

出産後の食事としては最適とされます。



大仕事を終えた娘(または嫁)に食べさせるワカメ。

それはできるだけいいものをと考えますよね。

高価なワカメはそのぶん愛情の印でもあります。






さて、そんな高級ワカメの名産地である亭子港には、

ほかにもいくつか有名な特産品があります。



そのひとつがチャムガジャミと呼ばれるカレイ(マガレイ)。



亭子テゲと呼ぶズワイガニも有名ではあるのですが、

カレイの水揚げ量は全国に流通する約7割にのぼります。

いちばんの旬は産卵前の3月頃。



新鮮なものは刺身にしても美味しいですが、

蔚山の市街地に行くと、



「チャムガジャミミヨックッ(カレイ入りワカメスープ)」



を自慢とする店がたくさん集まっています。

さすがにブランドの亭子藿ではないものの、

蔚山は養殖ワカメの生産も盛んなんですよね。






地元名物を巧みに掛け合わせた郷土料理。



大きくざっくりと切った大量のワカメは、

ジャクッとした食感で力強さを感じる味わい。



対照的にカレイの身はほろっと柔らかく、

ほんのりとした白身の味を上品に残します。

それでいてスープにはいいダシが出て濃厚。



ごはんを添えて定食風に味わってもいいですが、

蔚山ではひとしきり刺身で焼酎を飲んで、

最後をこのワカメスープで締めるのも定番とか。



ほろ酔い気分で、より美味しく味わえます。



なお韓国では自分を産んでくれた母に感謝をしつつ、

誕生日にワカメスープを食べる習慣があります。

もし誕生日に韓国へ行くような機会がありましたら、

ワカメスープを食べに蔚山を目指すのはいかがでしょう。



ただし、大事な試験を控えている人は厳禁。



ワカメがぬるっと滑って縁起が悪いので、

絶対に食べてはならないとされています。

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